前の記事を読むと、自分が絶対的なバント否定論者であるかのように見えてしまいそうですが、もちろんまったくそんなことはなくて、どちらかと言えば好きな作戦です。ただ、ポイントは2つあって、1つはバランス(固執しないこと)、そして2つ目が「いかに相手の嫌がる作戦を採れるか(当意即妙さ)」。
だから、例えば試合後半2点リードの無死1塁なんかでバントをするのは結構好きですね。基本的には相手の一塁・三塁がチャージをかけにくいことで 成功率も上がるし、結果きっちりランナーを進められることも含め、相手の嫌がる攻めにもなっていきますから。
それに対し、あくまで傾向としてはということですが、中軸に繋がっていく初回の攻撃や最終盤に1点を追う場面で判を押したように送る采配というのは好きじゃない。
ただ、こういう風に「実際のライブ感」に欠けるフォーマットで書いていても、一々「断り」を入れながらの文章で伝わりにくいところはありますから、より詳しくはこれからも、個別の試合における感想記で触れていくのが一番でしょう。
犠打に関しては、今後もできるだけ個別的・具体的に当否を考察していくようにしていければと考えています。

あと、これは完全な余談ですが、全盛期の(といっても、90年代~00年前後くらいのイメージですが)森本監督(元郡山)さんなどは、この点において、自分の理想に近い采配をされていた指揮官でした。特に荻野(ロッテ)のいた世代なんかはとにかく脚の速い選手が多かったこともあって(かつ、磯部、佐々木などポイントゲッターの質も確かでしたし)、何をするにも簡単にはやってこない嫌らしさと迷わせておいてからの思い切りがとても自分好みなチームでした。最後は「決勝戦での天理アレルギー」に屈して散りましたが、あの世代に関しては郡山のほうがポテンシャル的には上だったろうな・・と今でも思いますね。




報徳 012000320 8 中村、田中、岸田‐岸田、川端
北陽 000040002 6 内川、妻鹿、内川‐岸本
 

序盤は完全に報徳ペース。2回、2死ランナー無しから土谷が外野の間に落ちるヒットですかさず二塁を陥れると、続く三品の浅いセンター前ヒットで果敢に本塁突入し、先制する。
その裏、エース中村が3つの死球で1死満塁のピンチを迎えますが、北陽・植村の捕らえた打球は野手の正面を突き、併殺に。続く3回、3番石垣、4番岸田のバットからさらに2点を追加、中村も逆に荒れ気味な制球が打ちづらく、北陽打線に4回を終えてヒット一本のみの投球で完全に主導権を握ったかに思われました。

しかし、北陽は5回表エース内川がこの試合はじめて報徳打線(しかも中軸)を3人に抑えてリズムを作ると、その裏先頭の8番植村がヒットで出塁、続く9番土屋の犠打(※結果論で申し訳ないですが、ここのバントは試合中盤の1点取れば流れが変わりうる場面、かつ3回り目の上位につながる打順だけに、定石通りで全く異論ありません)で進めた後2死満塁として、4番岸本が詰まりながらも執念で運んだテキサスヒット。さらに、報徳の大畑が判断良く1塁ランナーを刺しにかかった三塁送球が逸れた感に1走井口も生還し、同点に。
この後、5番高好がライト前に運び、北陽はあっという間に3点ビハインドを1点リードへとひっくり返してのけた。

インターバルを挟んだ6回表、ここまで球威あるまっすぐが光るも終始制球に苦しんでいた内川がリードを得て躍動。緩いカーブでみるみるカウントを取れるようになり、緩急生かし高めのまっすぐで空振りを誘うなど2イニング連続の三者凡退に。しかし、触発されたように報徳中村も意地を見せ、裏の守りをミートされた打球が正面をつく幸運もありつつ3凡に封じると、続く7回表先頭として打席に立ち、よく粘って執念の四球。
そして、このエースの気迫に閃いた永田監督が思い切った采配に出る。中村に代走石濱を送ると、続く比嘉のとき、2-0となった3球目にエンドランを敢行し、見事成功して無死1・2塁。続く大畑が送って1死、2・3塁とすると、ここで3番石垣の打球は浅いセンターフライ。しかし、石濱は敢然と本塁突入し、勇躍生還。エースに代走を送った永田監督の意図が自らの采配とも連動し、相手に傾いていた流れを鮮やかに引き戻す足攻劇だった。
北陽ベンチは内川が続く岸田に四球を与えたところで、2番手妻鹿にスイッチ。しかし、妻鹿が5番普久山に四球を与えると、一塁に回していた内川をすぐにマウンドに戻す。
この采配について、北陽の新納監督は試合後「内川が気負いすぎていたのでリフレッシュのため。妻鹿は1人だけと決めていた」と話していたようですが、もちろん普段からそういう継投を多用しているのであれば、問題ないのでしょう。ただ、結果としては満塁から再登板した内川くんから力みは抜けず、連続押し出しで勝ち越しを許してしまった。こう書いてはアレですが、はためにはイマイチ意図の読めない継投策で、結果この日振れていた一塁手の植村くんを無駄に下ろしただけのように見えてしまったのが本音でした(もちろん、妻鹿くんも難しい場面での登板で、腕を振れてなかったですから、そのまま投げ続けたにせよ、結果が芳しくない可能性は高かったとは思いますが・・・)。

報徳は8回にも岸田のテキサスヒットで2点を追加、投げては7回から中村を継いだ田中が好リリーフで7~8回と北陽打線を封じただけに、さすがにこのまま報徳が逃げ切るかと思われました。
しかし、北陽は9回猛烈な追い上げを見せる。二死二塁から井口、井本、岸本の3連打で3点差の2死満塁としたところで、報徳ベンチはたまらず捕手の岸田をマウンドへ。それでも、流れは止まらず5回逆転タイムリーの高好もタイムリーで続き、4連打、そして2点差に迫る。まるで06年選手権帝京×智弁和歌山のような展開に、湧き上がる場内。しかし、最後は岸田くんが保市くんの放ったフライを自ら掴んで歓喜のガッツポーズ。報徳が2年連続の8強進出を決めました。


敗れた関大北陽ですが、ガタイのいい打者が並ぶ打線の迫力はこの日登場した6校の中でも屈指のものがあり、エース内川くんも終始制球に苦しんだものの、球威のあるまっすぐが魅力でこの日の6回のように緩急が機能するならば現状でも十分に近畿上位レベルの投手でしたから、一冬越えてかなり面白い投手になりそうな予感がありました。
4番キャッチャーの岸本くんもちょっと天然なところがあるのが気になりますが、(何回だったか、3塁にランナーいるのに、タイムをかけずピッチャーのところに行こうとして、ベンチの選手たちから「タイムかけろ!タイムかけろ!×8くらい」と総ツッコミを受けててちょっと面白かったし、その何イニングか後には同じ状況と見た3塁ランナーが隙を突いてホームインしたところ、主審がポカーンとしていて、結局スゴスゴ塁へ戻っていく物悲しいシーンもありましたw)4番としての勝負強さもありますし、精度はまだまだも肩も強く、今後が楽しみな存在になって来そうです。
今世紀、そして校名変更後初の選手権出場を意識できるだけのチームだと思いますから、今回の悔しさとその中でも強豪相手に粘り強く食い下がった収穫を糧に更に成長した姿を見せてくれるものと期待しています。 

勝った報徳は北陽の選手たちより、かなり体格的には小さい印象でしたが、それでも中軸を中心にさすがの打力があり、小技や足を絡めて繋ぐ意識の高さはさすが。残塁もそれなりに多く、ミスも出ましたから、投攻守に課題が出た感も否めませんが、難しい試合の流れの中で、それでも勝ちきれるのが強豪たる所以。ひときわ注目を集める選手がいるような世代より、案外、今季のように目立ったスターは居ないながらも、全員野球で勝ち上がれるチームが結果を出すのもここ最近の報徳のような気もしますしね。