年が明けて、ひとまず各球団オフの補強も一段落したように見えますから(あるいは、未了の球団もこの記事を書いてる間に固まっていくはず)、今オフの補強全体を総括した球団別の記事を今日からコツコツ上げていきます。
実は06年以降続けてきた昨季分の「シーズン総括」をお休みという形にしたのも、今季以降、よりこの「補強」という項目に絞ってプロ野球を眺めていこうという思惑が成すところでもありまして、今後7月末の補強期間終了から半月くらいを使っての「最終陣要チェック」、そして11月以降更新の「シーズン総括」の3回で連続性を持たせながら更新していく予定としています。

では、今回はとりあえずの第1回目として、日本ハムの今オフ補強を眺めていきましょう。


※投手の△は左投げ 野手の△は左打ち 野手の◎は両打ち

IN
大谷翔平 ←花巻東高(ドラフト1位 投手兼野手 右投げ左打ち) 
森本龍弥 ←高岡第一高(ドラフト2位 内野手) 
鍵谷陽平 ←中央大(ドラフト3位 投手)
宇佐美塁大 ←県広島工高( ドラフト4位 内野手)
新垣勇人 ←東芝(ドラフト5位 投手)
屋宜照悟 ←JX-ENEOS(ドラフト6位 投手)
河野秀数 ←新日鐵住金広畑(ドラフト7位 投手)
北篤←横浜DeNA
木佐貫洋←オリックス
大引啓次←オリックス
赤田将吾←オリックス

OUT
松家卓弘 投手
△宮本賢  投手 →引退(球団職員)
木田優夫 投手 →BCリーグ・石川
金森敬之 投手 →四国IL・愛媛
△土屋健二 投手 →横浜DeNA
△市川卓   内野手 →引退(球団職員)
△紺田敏正 外野手 →引退(二軍コーチ)
関口雄大 外野手 →引退(球団職員)
△スレッジ   外野手
糸井嘉男→オリックス
八木智哉→オリックス
ドラフト総括 100点
メジャー志望を表明していた大谷を強行指名。昨年も巨人入りを熱望する菅野を強行指名し、獲得に失敗していただけに、2年続けて1位指名選手を獲り逃すリスクをもろともせず指名に踏み切った姿勢は見上げたもの。まして、今回は翻意させ、入団に漕ぎ着けたのだから戦略としては大成功ですし、現段階の採点としても高得点をもって評価すべきでしょう(当然、やり方という意味で賛否はあってしかるべきですが、気に食わないから減点だというのでは単なる感情論ですし、また今後のドラフトにおける影響がどうのこうのなんていう仰々しい視点も個別の戦略評価や採点に持ち込むべき要因ではないはず)。

2位以降の指名も「巧者」らしく堅実かつ計画的で、かつこのチームらしい特色にあふれた指名。西川杉谷中島卓と台頭してきた現状の若手内野手とはタイプの違う「主軸候補の右打者」という観点から将来性豊かな高卒内野手森本宇佐美を指名した一方で、「投手は何人いてもいい」を地で行く一貫した指名戦略のもと、今年も社会人3名と大学生1名を確保しました。

前者については、高卒1年目から積極的に2軍の公式戦を経験させる確立されたチーム方針と順調な1軍への輩出実績が指名を後押ししますし、後者についても、毎年のようにこの世代の投手を複数獲得しているところ、昨年は菅野を逃したことも有り、即戦力投手は森内1人に留まっていましたから、その分も今年は余念のない即戦力投手重視の姿勢が現れたと言えそうですね。

このチームの強さを証明するデータとして、この10年、02年の武田久を手始めに、マイケル武田勝谷元増井、森内など主力~準主力クラスの投手をことごとく中位以下で押さえられている点はきわめて重要なポイントですが、今年も4人指名した大社投手の指名順位もすべて3位以下。例年通り、「ネック」よりも「持ち味」を買って指名した形跡がプンプンする個性派揃いの顔ぶれだけに、来季以降、同期・もしくはポジションを争うライバル同士の熾烈な1軍枠争いはいっそう過熱することになりそうですね。
また、もう一つの軸「高卒野手」についても、08年の杉谷と中島卓、11年の西川と谷口、12年の松本石川、そして今年の森本、宇佐美と明確な競争相手となりうる「コンビ」で指名するケースが多く、1年目から積極的に出場機会を与えられることで、互いがより刺激を受け合う、与え合う関係性が出来上がっています。

以上、ダルビッシュ中田斎藤の系譜に沿った「その年のNo.1」として獲得に成功した大谷の価値に加え、2位以降の戦略的王道をシンプルに乗りこなす順調な指名を総合すれば、それを表す点数としては100点という数字以外には考えられないでしょう。2012ドラフト、屈指の勝者として胸を張れる指名ができました。


その他(FA、トライアウト、トレード、外国人等)補強総括 85点
DeNAから土屋とのトレードでを獲得したのみで年明けまで動きはなく、このままキャンプインかと思われた1月下旬に看板選手の一人である糸井のトレードによるオリックス移籍が発表されました。今回のトレードにおける目玉であり、「前提」であるとも言える糸井以外の顔ぶれについても日本ハムからは左腕八木、オリックスからは右腕木佐貫、遊撃手の大引、スイッチヒッター外野手の赤田と全員が「レギュラー級」の選手で構成されたことも相まって、両球団のファン・関係者のみならず、球界全体に小さからぬ衝撃を与えるトピックスになったといえるでしょう。

今回の糸井放出を日本ハムの山田GMは「中長期の戦力バランスを整える目的」と説明しました。もちろん、3拍子が高い次元で揃ったプレースタイルを誇るリーグを代表する外野手であり、看板選手・人気選手の一人である糸井という「財産」を積極的に放出したい理由などはありません。
ただ、今回様々報道されている通りの要因、とりわけ海外FA取得よりも4~5年も早いタイミングでポスティングによるメジャー移籍を要望した糸井サイドの意向は「合理性」を追求するチーム・フロントにとって、到底受け入れることはできない条件であり、放出へとベクトルを強める大きなキッカケになったのではないでしょうか。

そして、いざ方向性を決めたなら、躊躇いなく、有益な成果を得るための「交渉」を進められるのが日本ハムというチームが今の地位を手にしている所以。
陽、中田で2つが埋まる外野の残り1枠に「ポスト糸井」を求めることはせず、金子誠に年齢と故障の不安が否めず、近未来の台頭に期待できる若手「本職」も打撃面でまだまだの感を否めない中島卓のみという他ポジションと比しても最大の「アキレス腱」と言える遊撃のレギュラー候補に狙いを定める。
そして、格好の存在として、短くない期間「ツバ」をつけ続けていたとされる大引を手中に収めるべく、彼を擁するオリに対して「これ以上ない」交換要員を提示してみせました。

さらにローテ左腕不足のオリに八木を差し出す代わりに、長期故障明けのケッペル、まだ年間通したローテ経験がなく未知数さの残る中村勝、3年目の本領発揮に全幅の信頼を寄せきれない斎藤佑ら「右腕」と「4枚目」以降の先発投手に心もとなさを否めないチーム事情を安定させる意味で貴重な木佐貫を首尾よく獲得。昨季5勝に終わったものの、年間150イニングを超え、チームで唯一年間ローテを守り抜いたベテラン右腕の加入は戦力の安定に大きなプラスを齎すことでしょう。

この2人に経験豊富なベテランとして、層の薄い代打の切り札に、あるいは故障の状態さえ良ければ、若手が多く未知数な「ポスト糸井」争いの中で短期的な存在としても計算しうる赤田を加えた3選手は戦力としての価値はもちろん、人間的な評価も高く、その意味においても山田GMの言う「中長期的戦力バランス」を整えるにおいて不可欠な存在となるはず。「糸井放出ありき」を前提とした「交渉」と考えれば、きわめて重要な成果を得たトレードになったといえるでしょうね。


もっとも、糸井放出という「決断」に伴う大きめの戦力移動があったにせよ、あくまでそれは限定的な要因であり、若手を使って育てるというチームとしての基本的な姿勢にはなんら変わりはありません。
流出の想定された田中賢介の後釜には「準備」のできた状態で西川、杉谷が控え、怪我が多くフル稼働が厳しくなりつつある小谷野のサブには、指揮官が今季の「強化指定選手」として挙げた佐藤のコンバート案で対応。バックアップもオールラウンダーの今浪、飯山、岩館がスタンバイし、状況によってはシフト可能な大引の加入もさらに起用の幅を広げる要因となっています。
また、スレッジの退団に関しても、むしろホフパワーと役割が似通っていただけに、ホフパワーのパフォーマンスが上回った昨季を思えば妥当な判断。彼の抜けた分、「左の強打者」枠には新加入の北や期待の佐藤が殴りこみをかけることになるでしょう。
そして、最大の懸案となる「ポスト糸井」に関しても、陽と中田で確立された外野手の定位置事情を鑑みれば、1枠を競争に充てることは、逆に選手間の競争を一層刺激する要因となり、キャンプ~オープン戦、あるいはシーズン中も含め、前述の北、佐藤(三塁と併用)や3拍子揃ったプレースタイルで期待の大きい谷口らによる熾烈なポジション争いが展開されることでしょう。どのタイミングかはなんとも言えませんが、その中に黄金ルーキー大谷の名前も入ってくるなら、まさに「言うことなし」のシチュエーションが出来上がります。

採点としては、不動の3番ライトを放出する代わりに弱い部分を着実に高めることができたわけですから、プラマイがどうなるかは結果が出てからになるとはいえ、主体的にこの大トレードを押し進めた「らしさ」も評して現段階では高評価の域にラインを置くこととします。賢介が抜けたマイナスをそこに加えるにしても、85点くらいはキープできるのかなと。

最後に、現段階では未確定情報ですから、採点対象からは外していますが、一部報道では今キャンプにおいて、キューバ出身の右打者アブレイユの入団テストを行うとの情報も出てきていますね。一塁、もしくは指名打者候補ということでチームの補強ポイントにも適っていますし、現状外国人選手の在籍は4人のみ。順当に合格となれば、ポジションの重なるホフパワーはもちろん、投手陣もウルフ以外は長期離脱明けのケッペル、昨季途中加入も結果を残せず、今季の活躍に関しても未知数な部分の多いモルケンと期待半分・不安半分な顔ぶれが並んでいますから、外国人枠を巡る争いも活性化され、一つの見どころとなってくるでしょうね。
もちろん、シーズン途中の助っ人補強についても準備は出来ているはずで、ロースター漏れのリストやチームの状況を観ながら、随時判断していくことになるでしょう。


総合評価 90点
大成功のドラフトを鑑みれば100点でもいいのですが、「その他補強」での大トレードがどう戦力収支に影響を与えるかについて、「余地」を残す意味でも90点としました。
もちろん、潤沢な投手陣を見返りにすれば、シーズン途中にも積極的に動いていくことは可能ですし、その実績もありますから、そこらへんも踏まえつつ、今季継続して更新する予定としている「補強」を主眼に置いた「最終陣要チェック」および「シーズン総括」で一定の評価を定めていければと考えています。